東京高等裁判所 平成9年(ネ)688号 判決 1997年12月10日
茨城県猿島郡総和町大字下大野字原山一八二〇番地一
控訴人
ヤマト工業株式会社
右代表者代表取締役
唐川和雄
右訴訟代理人弁護士
及川昭二
右輔佐人弁理士
川崎隆夫
埼玉県戸田市新曽南四丁目一番五号
被控訴人
旭産業株式会社
右代表者代表取締役
長谷川実
右訴訟代理人弁護士
水谷直樹
右輔佐人弁理士
中山清
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決添付別紙物件目録記載のラッキングカバーを製造し、販売してはならない。3 被控訴人は、本店、その他の営業所又は工場において占有する前項のラッキングカバーの完成品及びその製造に使用する金型を廃棄せよ。
4 被控訴人は、控訴人に対し、金三億円及びこれに対する平成六年七月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
6 第4項につき仮執行宣言。
二 被控訴人
主文と同旨。
第二 当事者の主張
当事者の主張の要点は、以下に付加するほかは、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴人
1 原判決の争点について
原判決は、本件考案の構成要件(二)の一部分にすぎない「アール部9a」及び同(三)の一部分にすぎない「アール部10a」を独立した構成要件(要件A)として摘出し、これらがイ号物件の「第一コーナー部109A」及び「第二コーナー部110A」にそれぞれ該当するか否かを本件の争点と認定する誤りをおかしている。
また、構成要件(二)の一部分にすぎない「縁部3aの上端部の、表面側を設定長l1の長さで下向き傾斜線状に切除して、上端のアール部9aから折り返し部4cに回ってガイドライン9bを形成する」こと及び同(三)の一部分にすぎない「縁部3bの上端部を、設定長l2の幅及び設定長l3の長さで僅かに下向き傾斜線状に切除して、上端アール部10aからガイドライン10bを形成する」ことを独立した構成要件(要件B)として摘出し、これらがイ号物件の「第一案内部109C」及び「第二案内部110C」にそれぞれ該当するか否かを本件の争点と認定する誤りをおかしている。
2 本件考案のアール部について
本件考案のアール部について、その円弧部分の半径の寸法を限定する記載はないから、半径の実施例の数値を極く微小(例えば、〇・一mm~一・〇mm)にした場合、イ号物件の「第一コーナー部109A」及び「第二コーナー部110A」と肉眼では形状の区別がつかず、その微小な差異が、明確な作用効果の差異として表れるとは考えられない。
3 本件考案のガイドラインについて
本件考案のガイドライン9b及びガイドライン10bは、傾斜線状に形成されたことを特徴とするものであって、その角度の具体的数値などは問題とされていないにもかかわらず、原判決は、一実施例にすぎない図面から傾斜角度を測定してそれを数値で示しており、不当である。また、ガイドライン10bについての「僅かに下向き傾斜線状に切除して」との「僅かに」とは、下向き傾斜角度を修飾している語ではあるが、これを限定するものではないのである。
他方、イ号物件の第一案内部109C及び第二案内部110Cについて、物件の実例に基づいて具体的数値を示したことは不当であるし、第二案内部110Cが「約一〇八度の鈍角を形成している」と認定しながら、どのような理由でこれが僅かに下向き傾斜でないのかを明らかにしておらず、本件考案のガイドライン10bとの作用効果の相違も不明である。
二 被控訴人
1 原判決の争点について
イ号物件が、実用新案登録請求の範囲の技術的範囲に属するか否かを判断する際に、実用新案登録請求の範囲を構成要件ごとに分説した上で、その中の特定の構成要件が規定する個別の要件を具備するか否かを検討することは、当然のことである。
しかも、原判決は、結論として、イ号物件が、要件A及びBではなく、構成要件(二)及び(三)中のそれぞれの個別の各要件を具備しているか否かを判断しているのであるから、この点からみても何ら非難に値するものではない。
2 本件考案のアール部について
控訴人は、アール部の円弧部分の半径につき数値限定の記載がないことを奇貨として、半径を極く微小にした場合には、肉眼では形状の区別がつかず、その微小な差異は明確な作用効果の差異としては表れないと主張するが、この主張は、本件公報において、アール部のない従来技術と比較の上、本件考案にアール部を設けたことにより、「引掛りのない円滑な最初嵌合」を実現した旨の記載と矛盾するものである。
3 本件考案のガイドラインについて
ガイドライン10bを「僅かに」下向き傾斜線状にしたとは、下向き傾斜角度を修飾し限定するものであることが明らかであり、控訴人の主張は、あたかも「僅かに」が実用新案登録請求の範囲中に規定されていないかのように解釈するものであって、およそ理由のないものである。ちなみに、本件考案の実用新案公報中の「Ⅲ 本考案の構成」においても、「ガイドライン10bを略設定長l3の長さで僅かに下向き傾斜線状に切除して」と明記されている。
また、実用新案の明細書中の実施例が、考案を実施した場合の代表的な例を開示するものであることは、出願実務上自明のことであり、本件考案の実用新案公報中の実施例を図示する第1図上においても、ガイドライン10bが約九五度の角度で下向きに図示されている。
第三 証拠
原審及び当審における記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 原判決の引用
当裁判所も、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」と同じであるから、これを引用する。ただし、原判決中に「乙三」とある部分を、いずれも「乙四」と訂正する。
二 当審における控訴人の主張について
1 原判決の争点について
登録実用新案の技術的範囲にイ号物件が属するかどうかを判断するに当たって、当該登録実用新案の実用新案登録請求の範囲を構成要件ごとに分説した上で、その各構成要件が規定する技術事項をイ号物件が具備するかどうかを順次検討することは、当然かつ適法な手法といわなければならない。
原判決は、右の観点から検討を行い、イ号物件が要件A及びBを充足しておらず、したがって、構成要件(二)及び(三)を具備するものではないと判断しているのであるから、この判断過程及び結論は正当であって、控訴人の主張を採用する余地はない。
2 本件考案のアール部及びガイドラインについて
本件考案のアール部9a及び10a並びにガイドライン9b及が10bに関する控訴人の当審における主張は、イ号物件の第一案内部109C及び第二案内部110Cの認定を非難する点も含めて、原審における主張の範囲を実質的に出るものではなく、それらがいずれも採用できないことは、原判決の説示するとおりであり、当審で提出された証拠を含めて本件全証拠によっても、これを認めることができないことは明らかといわなければならない。
三 以上によれば、控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は正当であり、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)